しょかのたべもの3ぼんしょうぶ 3しょくめ

あわび様…

連日の接待。
仕事の8割が男芸者みたいなものなので、つき合わされるのは仕方が無い事なのだが、さすがに何日も続くと身体が辛い。
ましてやこの暑い日ではね…。


その日は比較的早く終わった。
時間はまだ22時前。
飲んでばかりだったので、なんとなく小腹も空いている。
上司の「軽く飯でも食って帰るか」の誘いに応じ、銀座のはずれをブラブラ歩く。

「どこにしようか」と問いかける上司に「久しぶりにお粥屋へ行きませんか?」と私。
私同様、連日の付き合いで疲れ気味の上司は私の提案に即快諾。
共にJR線路沿いにあるその店へ行く事となった。


好々亭(はうはうてい)


JR有楽町駅と新橋駅の中間くらいにある中華粥専門店。
店の中はカウンターとテーブルが3つ程度という広さなのであまり長居出来る感じではない。
よくは知らないのだがいくつか支店があるらしく、点心は中国の工場で作ったものを冷凍で持ってきているらしい。
点心もまぁまぁ美味いのだが、やはりここに来たら中華粥を食べずにはいられないだろう。
本当か嘘かは知らないが、銀座で遊んだ大会社のお偉いさんが最後の〆めで食べに来るとか来ないとか。


とりあえず青島ビールを注文し、何を食べるかメニューを見る。
普段だったら高くても800円程度の粥を注文するところなのだが、今日は上司と一緒。
もう少し上のものを食べてみたい…。


「どうせ経費で落とすから好きなのを頼んでいいぞ」と上司。
どうやら私の食べたいオーラに気づいたらしい(苦笑)


それでは…とドキドキしながらメニューの真ん中あたりを指差す。


あわび粥…1575円


あわびですぜ、あわび!
これだけ値段が他のものの倍くらいの値段がついている。
今まで何度かこの店には来ているけど、自分の中では最初から無いものになっている一品。
そんな私のドキドキに気づいてか気づかないでか、さらりと注文をする上司。


青島ビールをチビチビ飲みながら待っているとお粥がやってきた。
3時間ほど煮込まれた薄クリーム色っぽい粥の上に刻みネギと点心の皮を細かく切って揚げたものが散らしてあり、その下には大きめにスライスされたあわび数枚が鎮座している。


白い湯気が立つ粥にれんげを入れてまずは一口。
化学調味料を一切使わないのが売りの店(とはいっても時々それっぽい味がするのは御愛嬌かな)
なので、普段だったら鶏ガラ出汁のあっさり味の粥の味なのだが、なんだかいつもと味が違う。
粥というよりもポタージュスープの様な濃厚さがあるのだ。
これは本当にお粥なの?と何度も見直してしまうのだが、器の中にはいつもと同じ粥と具が入っているだけ。
唯一いつもと違うのはあわび様。


普段食べてるのはピータン粥とか塩鶏とか少々塩味が強めのやつだからと思い直し、今度はあわびを一口。
コリコリとした食感と芳醇な味が口内に広がる。
生ではないと思ったが、一応店員に確認。

「煮込んでます」と笑顔で答える店員。

なんかズレてる。
ここの店員さんは愛想はいいのだが、中国からの学生さんとかがバイトでやっているらしくお世辞にも日本語が上手くない。
だから、単にお粥そのものの作り方を聞かれたと思ったのかも…。
そりゃ〜お粥の具材なんだから、ある程度は一緒に煮込みますわな。


これは私の想像だけど、おそらくは乾燥させたあわびを1回戻し、それを入れて煮込んだんだろうと思う。
貝を乾燥(干)したものを戻して食べるのは中華の基本技。
そうする事で旨みが凝縮されるんだよね。


熱い粥をハムハムホフホフと汗をかきつつ食べる。
胃袋から内蔵がじわっと暖かくなり、活性化してくるのがよくわかる。
さっきまでグッタリ気味だったのに、また頑張れそうな気分。


特に特殊な技巧を凝らしたのでは無いのだろうけど、単純故に手を抜けば簡単にばれてしまう料理。
その一つが中華粥なんだろうね。


完食し、会社名が入った領収書(笑)を貰って上司と別れる。


はぁ…今度あのあわび様にお会い出来るのはいつになるのかな…。