あこがれのひと

いまの待ち受け画面w

人には誰でも憧れている人がいると思います。
かくいう私にもそういう人が何人かいるわけなのですが…。


今回、その内のお一人にお会いする事が出来ました!
その人の名は北方謙三氏。


ここ数年は時代小説を主に書かれていらっしゃるし、その中でも独自の解釈を加えた三国志水滸伝がかなり評判らしいのでそちらの方から名前を知った方も少なくないでしょうが、元々はハードボイルド小説の大家。
今でこそこのジャンルはたくさんの作家さんがいらっしゃるのですが、その開祖の一人といっても過言じゃないんじゃないかなという作家さんです。


私が氏の作品に初めて出会ったのは中学3年か高校1年かの夏頃。
毎年出版社がやる「夏の100冊」とかいうようなキャンペーンでたまたま知りました。
作品名は「眠りなき夜」
氏が第4回吉川英治文学新人賞と第1回日本冒険小説協会大賞受賞した作品。


当時ね、あのくらいの年齢の男の子(?)にありがちなんだけど、推理小説にちょっとハマってたんです。
江戸川乱歩横溝正史をとっかえひっかえ読んでいたので、文庫本の裏に書いてあるあらすじを見て推理小説だと勘違いしちゃったんですよ。


衝撃的でしたね。
それまでSF小説と推理小説と名作文学と呼ばれるようなものしか読んだ事が無い小僧っ子には。
それから彼の作品を貪る様に読みました。
幸運にも(?)寡作な作家さんではないので、読む作品はそこそこあったしね。


「ブラディドールシリーズ」なんて何十回読んだかな。
「老犬トレー」って曲がどんな曲か聴いてみたくて、フォスターのCDを探した事もありました。
ホットドッグプレスの「試みの地平線」を読み出した頃はちょっと世の中の事がわかりかけた頃だったので、「何をカッコつけてんだ、このオヤジは」なんて笑った事もあったけど、それでも単行本はしっかり買っちゃってました(苦笑)


しかし、時代小説というのが少々苦手なので、そちらは正直1冊くらいしか読んでいませんし、最近の作品もあまり読んでません。
忙しいしさ、他に読まなきゃいけないのもたくさんあるし。
でも、「約束の街」シリーズは楽しみにしてますよ。


そんな氏の作品はまぎれもなく私という人間の人格形成に大きな影響を及ぼした人物の一人なわけなのです。
別に小説の主人公みたいにケンカが強いわけでも、カッコいいのでも、女にもてるのでもないけど。


で今回、氏のサイン会が開催されるという話を聞き、矢も立てもいられず参加する事としたのです。


場所は八重洲ブックセンター本店。
ここは結構定期的に作家さんのサイン会とかをやってるんですよね。
私も過去に何回か行った事があるし。


職場から歩いて行ける場所だし、スケジュールも問題なし。
事前にサイン対象となる新刊「絶海にあらず」上下刊を購入してこの日を待ちわびてました。


開始から少し遅れて会場となる店に到着。
店頭で呼び込みをしているのもあってかそこそこの長さの列が出来てました。
やはり最近は時代小説の方が増えているためなのか少々年配の方が多いかな。
女性も落ち着いた感じの人がそこそこいますよ。
整理番号方式ではないので、そのまま列の後ろについて待機。


もうね、落ち着かないんですよ。
携帯をいじってみたり、持っていた本を読んでみたりするんだけど全然頭に入ってこない。
今まで色々な人の握手会とかって参加した事があるけど、おそらくその中でもトップクラスのテンパリ具合。
まぁ後藤真希と初めて握手した時はもっとテンパってたと思うけど(苦笑)


30分ほど待って、氏の姿が見えるところまで列が進む。
チェックの上着を無造作に椅子の背にかけ、薄紫のポロシャツを着た氏が丁寧に万年筆でサインをしているのが確認出来ると心拍数は一気にヒートアップ!


人数にしてあと5人くらい。
どうやらそこそこの持ち時間がありそうだけど、どうしようか頭の中がグチャグチャ。
と、私の3人くらい前の女性が紙袋から大量に本を取り出したんです。
上下刊あわせて10冊くらいかな。
人に頼まれてのものなんだろうけど、嫌な顔一つせずにサインをする氏の姿を見てちょっと落ち着きを取り戻しました。
すると、私の前のおそらく20歳代前半くらいの女性が氏と写真を撮ったりしてるわけですよ。
( ´△`)アァ〜
そんなのが許されるのならば、私もカメラを持って来たよ…。
さすがに携帯の写メじゃ失礼だもんね。
立ち上がった氏の横に寄り添い握手する女性。


先生…少しだけエロ親父の顔になってるよ…(爆)


で、ようやく私の番。
いきなり「すいません、ずいぶんとお待たせしちゃって」と笑顔で謝る氏。
よく「少年の様な笑顔」という表現を使うけど、正にその見本の様な爽やかな笑顔。
あ〜こういう笑顔の出来る大人になりたいなぁ。


名前を入れてもらえる事になっているので、私の名前を確認し、氏がサインをし始める。
「中学生か高校生くらいの頃から先生の作品を読ませていただいてまして…」
サインをする氏に話しかける私。
自分でも声が震えて上ずっているのがわかる。
恥ずかしい…。
「もう17〜8年くらい先生の本を読ませてもらってます」(年齢がわかるな・苦笑)
するとちょうど1冊目(上巻)のサインを終えた氏が「ほう」と顔をあげて私の顔を見てくるんですよ。
「『試みの地平線』とかも読ませていただいてたんですけど、こんな格好の悪い大人になっちゃいました」と自嘲気味に苦笑する私。
顔の作りはしょうがないとしても、だらけきった身体は自分の怠慢でしかないからね。
すると氏は私の目をきっと見て「××君(私の名)、男は中身だぜ…」と言ってニヤリと笑ったんですよ。
もうね、涙出そうになった。
マジで。


なんとかそれを堪え、「出来たら2冊目には先生のお言葉を頂戴できませんか?」とお願い。


すると氏は私の名前の横に


「男は志」


と書いてくださいました。


そうなんだよね。
形は違えども、氏が描く男ってのはみんなそうなんだよね。
短い言葉ありきたりな言葉っぽいんだけど、何かガツンとやられたような気分になる言葉でもありましたよ。


書き終わると氏は大きな手を差し出してきて「今日はどうもありがとう!」と大きな声で言ってきました。
私はそれを両手で握手し、これだけはどうしても聞きたかった質問をしたんですよ。


「先生…次の『約束の街』はいつ頃に…」


すると氏は少し困ったというか、やはり聞かれたかというような顔。
「いや〜さっきも同じ事聞かれちゃったんだけどさ…。次のは今までよりももっと沈んだトーンで書こうと思ってるんだよ。川中を一人称にしてね。」と言って笑う氏。


「期待してます。頑張ってください。」と月並みな言葉を残し、私は一礼をしてその場を去った。


家に帰り、改めて氏が書いてくれた言葉を見直す。


人生30数年やってきて、大きな失敗をした事もあったけど、とりあえずそこそこの事はやれている。
決して成功しているとも思わないけど、失敗してにっちもさっちも行かない様な状態でもない。
だから現状に不満がそれほどあるわけでも無いんだけど、
これでよかったのかなとは時々思う事がある。


もう1回、何かを頑張ってみるかな…。
次に氏と会えるのがいつかわからないし、もう二度とそういう機会が無いかもしれない。
でも、もし会えた時に「お前、頑張ってるな」って言ってもらえる様に。